ところで。
合宿の楽しみの一つといえば。

「ぅおりゃーー!!」
「ちょっと英二やめてよ!冷たい!」
「あはははは!!」
「英二先輩スキありぃ!!」
「桃も!やめてってば!」
「ぎゃあー!やりやがったなっこの!」
走りまわる桃の背中めがけて口を押さえたホースを向け、指をはなす。
勢いよく発射された水は見事命中。
「うぎゃ〜冷てー!!」
たまらず転げまわる桃にとどめの一撃!
「くらえ!菊丸ビーム!!」
・・・。
あれ?不発?
ホースをのぞき込んだとたん、
「とりゃ!!」
「へ?ぶわーー!!!」
桃がどさくさに紛れて押さえていた足を離したもんだから、かなりの勢いの水がオレの顔を直撃した。
あわててホース放り出したけど息が苦しくて鼻の奥が痛い〜!
「モロに入ったじゃんか!このバカ桃!!」
「わはははは!!」

「・・・ねぇ、二人とも?」

また追いかけっこが始まりそうだったオレたちは、不二のやたら優しい声に固まった。
「ちょっとやめてくれないかな?」
僕さっきから巻添え食らってびしょ濡れなんだけど。ってスポンジを持ってにっこり笑う口元と違う生き物みたいに目が笑ってない。
やば・・・怒ってる?
「ふ、不二・・・」
「あれ?僕の勘違いかな。確か今はお風呂掃除であってお風呂の時間じゃないはずなんだけど。」
怒ってる。
「「・・・スミマセンデシタ・・・」」
「ん?何かに怯えてるみたいだけどどうしたの?」
またニコーっと笑う。
こっ・・・怖・・・
殺気を感じたのかちょっと青ざめつつ大人しくブラシでタイルをこすり始める桃。
運良く洗剤が切れたから、取ってくる〜ってオレは逃げた。



この分じゃ夜の枕投げもダメかなぁ。これ以上あいつを怒らせたらどうなるか分かったもんじゃない。
「テニス部最恐の男だよなー・・・」
ある意味手塚より怖い。
ブツブツ言いながら外の水道に行って洗剤を探す。
「・・・ん〜?」
見つからない。乾のヤツ昨日使った後どこに置いたんだよ。
あいつ背高いから上の方かな?と思って作り付けのコンクリートの棚みたいなのの中も探してみたけど、ない。
諦めて戻ろうとしたとき、やっと裏側の流し台の下にでっかい粉石けんの缶を発見した。
ったくよー分かるとこに置けよ乾のアホー、とかまたブツブツ言いながらそこにもぐり込んだとき ザリ って誰かの足音。
誰だろ?って思ったら
ガシャン
「―――ふうっ」
ボールを入れるカゴを置く音と一緒に吐き出された息と声。
いっつも聞いてる音だから―――いつも聞いてる声だから、一発で分かった。
『おおいしだ』
そういえばあいつ今日はカゴ洗いだったっけ。
ん?カゴ当番はあと三人いたはずだけど。
水音を聞きながら当番の顔を思い出す。
―――さては
『あいつら大石に押しつけてサボりやがったな?』
絶対そうだ。めんどくさいからやりたくねーって言ってたし。・・・後で経済制裁だな。花火代押し付けよう。
ていうか引き受けんなよ〜大石・・・カゴって二十個以上あんじゃん!全部一人で洗う気?
人から何か頼まれたら断れないヤツだからなぁ。まったくバカみたいにお人好しなんだから。
よーしここはダブルスパートナーである菊丸英二くんが手伝ってやろうじゃないか!
ニヤリ。
『いきなり顔出したら驚くだろうな〜』
音を立てないように気をつけながら流しの下から出る。
『3・・・2・・・1―――』

「大石」

でもそう言ったのはオレの声じゃなかった。


「ああ、手塚」



















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