「疲れた・・・」
「今日は一段とすごいメニューだったからね」
昼休み。
食堂でへばるオレに、不二がご自由にどうぞの麦茶のコップを持ってきてくれた。
「サンキュ・・・でもこれで終わりだぁ〜」
「おめでとー」
練習が始まる前に、手塚が急に「今日は午前だけ」って言いだした。
一体どうしたんだ雨でも降るんじゃないか、なんてみんな騒いだけど、いつもどおり無表情の新部長は本気で、本当に午前中でトレーニングを終えた。
ていうか、終わらせたって言った方がいいかも。しかもかなりむりやり。
昨日まで一日かけてやってたトレーニングメニューを午前中に全部やった。
七、八時間かけてやってたメニューを四時間で。
いくら縮小版だったとはいえ
「オニだった・・・」
「ホントにね。―――でもちょっと意外だな。あの手塚が・・・」
「練習縮めるなんて?」
うなずく不二。
「まさにテニスの鬼!ってやつじゃない?手塚って。どうしたんだろう」
「そだね」
麦茶を飲み干すふりをしてコップをくわえたまま上を向く。


きっと大石が言ったんだ。


  なぁ手塚。
  今日は最終日なんだし、半日にしないか?
  今までは一日中動きっぱなしだったじゃないか。
  トレーニングだけが合宿の目的じゃない。部員間のコミュニケーションも大切だと俺は思うよ。
  ・・・うん、そうだな。かなりキツイけどいいシメになるよ。
  じゃ決定だな。
  ―――よし!今日も一日頑張ろうな! 手


「英二センパーイ!!」
やたら元気に走ってきた桃のおかげで脳内妄想は止まった。
「なんだよ元気いいなー桃」
「メシ食いましたからね!」
おまえ分かりやすくていいな。
「先輩たちまだなんスか?Aランチ終わっちまいますよ」
「オレは誰かさんみたいに食欲魔人じゃないのー」
「僕もまだいいよ。―――で?何か用なんじゃないの、桃」
不二が苦笑しながら食欲魔人に尋ねる。
「あ!そうだった。英二先輩、花火ってどれくらいあるんスか?」
「どれくらいって?」
「一年みんなかなり乗り気なんスよ、だから足りるかなぁって」
なんか海堂までやるって言い出して、とちょっと不本意そうに頭をかく桃。
「足りないようだったらひとっ走り買ってくるんで」
「そうなの?・・・んー、多分大丈夫だと思うよ」
とりあえず売り場にあった一番おっきいセットを六袋買ったから。
「そっスか。んじゃいいっスね」
「うん。―――なぁ桃、おまえ何の花火が好き?」
ポカンと質問がわかんない、って顔をする桃。
ホント分かりやすくていいなおまえ。
「いろいろあんじゃん、ロケット花火とかネズミ花火とかヘビ花火とか」
「なんでそんなイロモノっぽいのばっかなんスか!・・・どれもいいっスけど、持ってやるでっかいのが一番スかね。なんとかドラゴン!とか」
「あー桃っぽいな〜」
「でしょ?なんたって俺、夏男ですから!あ、もちろんネズミ花火も好きっスよ」
そんじゃまた後で〜と、るんるん去っていく背中に手を振りながら、やっぱちょっと足りないかも、と思った。
・・・手塚はオレにムリヤリ一本やらされるぐらいだろうから、残りをまわせば心配ないかな。
それにしても海堂も参加とは。ちょっと意外。
でもま、人数は多い方がいいからね。
「不二はさー、どんな花火がすき?」
コップをくわえたまま不二にふる。
「僕は・・・線香花火が好きかな」
空のコップを置いて頬づえをつく不二。
「綺麗だよね。はかなげっていうか」
「え〜すぐ消えちゃってつまんないじゃん!地味だし」
「確かに派手さはないけど。しみじみして好きだな」
「意外に年寄りくさいのね不二って」
「こういうのは粋っていうの」
「自分で言うか?」
「英二が言わないからだよ。・・・そっちはどうなの?英二が好きなのは?」
「ん?決まってんじゃん―――打ち上げパラシュート!」
きみらしいねとにっこり笑ったキレイなクラスメイト。
こいつすごく似合いそうだな線香花火、と思った。


大石はどんな花火が好きなんだろう。


















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