合宿五日目。

「花火やろーぜぃ花火!
早朝ミーティングでかなり元気よく提案したオレを、まだ眠い目の桃が見上げる。
「朝っぱらから元気っスね・・・」
「朝だってのに元気ねぇなぁ」
オレはテーブルに崩れたままの後輩を腰に手を当てて見下ろしてやった。
「そんなことじゃ今日一日乗り切れないぞこの桃太郎!」
「だってメシもまだだし・・・」
力入んないっスよ〜、と情けない声を出す頭をぺちんと叩いてホワイトボードの前に座っている手塚に呼びかける。
「泊りも今日で終わりだろ?この四日ず〜っとマジメにトレーニングしてたじゃん!最終日の夜ぐらい遊ぼうよー」
「賛成っス」
へたりながらも援護射撃する桃。
桃は一年のリーダーみたいなヤツだから、これで一年票はゲットだな。
あ、海堂は別か。あいつ桃と仲悪いし、みっちり練習したいって言いそうだしなぁ・・・
とにかく大半の一年は味方についた。
おーし日が沈んだら近くの河原で、ってテンション上がったオレ達に
「却下だ」
釘をさす、氷みたいな手塚の一言。
「そんなぁ〜手塚部長・・・」
「何のための合宿だと思っている」
「だってさぁ―――」
「折角一日テニスのために使えるのに遊んでいる暇などあるか」
「もーそんなの四日もやりゃ十分だろ?夏休みなんだからみんな遊びたいんだよ!」
「・・・ほう、随分と元気が良いようだな」
身を乗りだしたオレを見る眼鏡の奥の目がすーっと細くなった。
あ、やば・・・
「そんなに元気が有り余っているのならば―――」
「まあまあ、手塚」
首をすくめたオレにグラウンドならぬ合宿所外回り○○周!が出る寸前で、助け舟を出してくれたのは大石だった。
「これからたっぷり動くんだから勘弁してやれよ」
左手のノートに書いてある今日一日の流れを右手の黒マジックでボードに写しながら、な?って手塚に笑いかける。

ちく

「そうだよ、誰も練習しないなんて言ってないんだからさぁ」
「そうっス、今日も今まで通りやりますよ!」
ここがふんばりどころだ、頑張るぞ桃!
「日中はちゃんとトレーニングするから」
「日が沈んだらいいじゃないっスか」
「もう花火セット買っちゃったし」
「おわ!英二先輩準備いいっスね」
「ったりめーだろ菊丸様をなめんなよ!なー、そういうわけで。たのんますよ手塚ブチョー」
おねがいしまーす、と桃と二人で頭を下げる。
テーブルの先、多分腕を組んでる仏頂面は何も言わない。
こんだけ頼んでもダメ・・・?
「―――俺からも頼むよ、手塚」
「大石」
パチンとキャップをする音と優しい声。
「たまには息抜きも必要だろう?」
「・・・・・・」
「大丈夫、火の始末はちゃんと俺が責任もってするから」
な?

ちくん

「・・・―――」
フゥ、ってためいき。
おそるおそる顔を上げると、相変わらずの仏頂面で。
「朝食をとり次第コートに集合。柔軟は各自でしておけ」
おもむろに席を立って出て行ってしまった。
・・・んー、と・・・
どうしたもんかと大石をうかがうと
「―――いいってさ。」
って苦笑しながら。
「ホントっスか!?」
「やっった〜〜!!」
「はっなっび!はっなっび!」
「ただしちゃんと集中してトレーニングするんだぞ?」
「「わかってまーす!」」
桃とユニゾンで叫んだあと、不二も巻き込んで食堂に走る。
途中で追い越した手塚の頭を軽く叩いて
「サンキュな!花火一本オマケしちゃるよ!」
ぱっと振り返ったら、やっぱり仏頂面だった。




















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