「だめだ」

パソコンに向かっていたハルコさんがそう言ってぱたんと後ろに倒れた。

「だめですか」
「だめだ」

ぼくが尋ねると同じ言葉が返ってきた。
ハルコさんはレポートを書いていて行き詰るとよくこう言う。
今日も午前中から、明日締め切りのレポートとにらめっこしていた。
時計を見ると11時半。

「ちょっと休んだらいいじゃないですか」

いつものことだがこの人は締め切りぎりぎりにならないと物事に取り掛からない。
このレポートだってずいぶん前に出されてたはずなのに、書き始めたのは今日だ。
ぼくは5日くらいまえに出したのに。
でも今終わっていないということは変わらないのだから、そんなことを言っても仕方ない。
何しろ午後一杯ずっとパソコンにむかっているのだ。

「うーん」
「なんか食べますか」
「うーん」

たとえ集中していた時間がそのうち4分の1だったとしても。

「なんか飲みますか」
「うーん」

もうこうなったハルコさんは具体的な答えを返してこない。
それを承知でとりあえず言葉だけ投げてみる。

「お茶とコーヒーどっちがいいですか」
「うーん」
「おかゆもつくれますけど」
「うーん」
「ぼくはさっきシチュー食べましたよ」

ぼくの本の中では刑事と犯人との頭脳戦がくりひろげられている。
もうすぐおわる。

「うーん」
「パンとご飯どっちがいいですか」

となりのハルコさんは腕で顔をおおったままうなるだけ。

「うーん」
「どっちもいらないですか」
「うーん」

考えてるような字面だけど考えてない。
何も考えてない。
最初のうちはほんとに悩んでるんだと思ってずいぶん気を遣ったけれど、今はあまり気にしていない。
ぼくも何も考えないでしゃべるだけ。

「あした何日でしたっけ」
「とくがわくーん」
「はい」

そして大体こういうとき名前を呼ばれると。

「抱きついていい」

と言われる。

「いいですよ」

ぼくが言うか言わないかわからないうちに90度転がっておなかの辺りに頭を押しつけてくる。
用意がいいことに最初に名前を呼ぶ時点でめがねは外している。
こたつに下半身をつっこんだままではくるしいだろうに出ようとしない。
うでを回してぼくにくっついてくる。
ぼくのおなかが鳴った。
ハルコさんはくすりとも笑わずぼくのおなかに頭をくっつけている。

「ハルコさん?」

本をこたつに置いて髪をさわってみる。
お風呂に入ってないからあんまりきれいじゃない。
ちょっとからまる茶色い髪をすいた。
ハルコさんは目を閉じている。
少し見えてるほっぺもつついた。
ハルコさんは目を閉じている。
人差しゆびとおやゆびでほっぺをつまんでみる。
ぼくとは違ってむにっとしている。


「おもいついた」


いつも寝てるのかと思うけどだいたいしっかりおきていて、ハルコさんはぱっちり目を開くとがばっと起き上がってすごい勢いでキーボードを打ちはじめた。
この分ならもうすぐおわる。

いまのうちにシチューとご飯をあっためておこうかな、と、充電器はこたつを出た。










なかなか終わんなかったレポートが終わったときに衝動的に書いてみた。
ハルコさん色々やらかしてくれそうで面白いのでいくつか書いてみようと思いますた。
まんがが描けるようになりたいです。

2007.1.2




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