星を眺めるのは嫌いではない。



 特に冬。

 真っ黒な夜空に点々と白い光が散らばる様は物寂しくもあり、何となく懐かしい気もしなくもない。




「みどり」


 そうしていると誰かに呼ばれる気がする。

 ずっと昔からそうだ。


肺が冷えた空気で満ちていく。

足の先も指の先も髪の先も、私の端の部分が全てこの空気の冷たさに近づいていく。

夜というこの闇と冷気の力は素晴らしい。


「ああ」


腿や頬も氷のように冷たい。

唇の色が引いていくのが分かる。


 まず白くなって、それから透明になる。


 それは体の他の部位も同じで、髪などは一番顕著だ。

 つめの先も残さず私は空気と同じになる。



  そんな気がする。



「何してんのお前」

背後に立つ男が呆れたように息を吐くと、それも白くなって見えなくなる。

「星を見ている」

「またかよ」


 だから私もそうなのだ。

 こうしていればいずれ白くなって、彼の目の前から消える。

 ただ息と違うのは、私は空気には溶けないという事だ。

 私は存在している。

 彼に見えなくなるだけだ。


「そんな格好してたら寒いべー」

言いながらも自分が羽織っているコートを渡すような素振りは見せない。

「ああ」


 こいつもきっと知っているのだろう。

 私は見えなくなるけれど、消えるのではないのだと。

 そして私がそれを底の方では望んでいるのだと。

 だからこうして、白くなっている私に何もしないのだ。


「俺もう帰るよ?」

「私も戻る」

「おう。

  っお前なんだよこの手!」

「冷えた」

「限度ってもんがあんだろ!」

「そうでもないぞ?」

「馬鹿いうな」


街の灯に照らされ、はっきり見える私の体は空気に更に拒まれる。

 もう、私が透明になる事はできない。

それが嫌でつい歩を緩めてしまう。


「ほれ」

決して優しくはない速度で後頭部に何かが投げつけられる。

「悪いな」

彼の体温で生暖かいそれを肩から落ちないようにしっかり羽織る。

空気に拒まれただの生き物に戻った私は、いつもいきなり寒さを感じるようになる。

カチカチと歯を鳴らす私を、彼は呆れて見ている。

「中央街に着く前には返せよ。誰かに見られたらたまったもんじゃない」

「ああ」

「いっつもいっつもそんなになる前に服着ろよアホ」

「ああ」

「ったく」

こうして悪態をつきながらもコートを貸してくれるのも常だ。



街に着く直前、コートを彼に放りながら振り返ると小さな光。


 私はまた来るのだろう。

 ここが戦場になったとしても。

 星を見ながら透明になるために。

 そしてその隣には、もしかしたら彼がいるのかもしれない。


















つづく・・・のかな・・・

これはある話の番外編のようなもので

本編も無いくせに何が番外編だか


本編は書きたいのでそのうち書きます

ちなみに脳内設定では無謀にも軍に所属(爆)

しかも隊長(爆)(爆)

どんな役職だかも分からないのに(蹴)